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第131話 すずらんの毒を追って①

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-05-14 06:00:57

 大理石のローテーブルの上に散らばったケーキの空き箱と、ソースの拭い残しがある白い小皿。

 ペントハウスのリビングは、バターと砂糖の甘ったるい匂いに占領されていた。

 ソファに深く腰を下ろした銀髪の来訪者は、最後の一口だったモンブランを綺麗に飲み込むと、満足げに大きく伸びをした。

「あー、食べた食べた。人間の甘いものって、すぐ消えちゃうけど、その一瞬のためにすごい手間かかってるよね」

 指先についたクリームをペロリと舐めとりながら、機嫌よく両足をブラブラと揺らしている。

 その対面のソファでは、ダークグレーのシャツの胸元を少し開けた巨体が、腕を組んだまま、氷のように冷たい視線を突き刺していた。

 吐き出される呼吸が重く、低い。テーブルを挟んでいるのに、その分厚い胸板から発せられる熱波が、空調の冷風を完全に相殺して肌をじりじりと炙ってくる。

「食い終わったなら、さっさとこの部屋から立ち去れ。それ以上お前の吐く息が混ざれば、空気が澱む」

 低い声が、フローリングを微かに震わせる。

 しかし、白亜
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     黎だった。 その輪郭が見えたことに安堵し、胸の奥のバクバクとした高鳴りを抑えながら、ゆっくりと歩み寄る。「……黎様。おはようございます」 声をかけると、組まれていた黎の腕が、僅かにピクリと動いた。 しかし、振り返る動作はない。 ただ、長い銀色の睫毛が僅かに上下し、黄金色の瞳が、冷たいガラス窓に映るこちらの姿を捉えただけだった。「体調は、もう大丈夫ですか? まだ、喉が痛んだり……」 さらに二歩、距離を詰めようとしたその時。「そこを動くな」 地を這うような、極端に低い声がリビングの空気を震わせた。 あまりの冷たさに、伸ばしかけた足が床の上でピタリと止まる。 黎はゆっくりと身体を反転させ、こちらに向き直った。 顔を見た瞬間、喉がヒュッと鳴った。 昨夜、書斎の暗闇の中で見せていた、あの怯える子供のような痛々しい表情は、跡形もなく消え去っていた。 彫刻のように硬く強張った顎のライン。 黄金色の瞳は、一切の感情を削ぎ落とした、絶対零度の氷そのもの。 ただそこにあるだけで、周囲の分子を凝固させるような、圧倒的なまでの人外の威圧感が、壁際から津波のように押し寄せてくる。 息をするのすらためらわれるほどの緊張感が、二人の間の数メートルの空間を支配した。「……黎、様……?」 戸惑いながら、名前を呼ぶ。 黎の薄い唇が、不自然なほど滑らかに動き、冷徹なトーンの言葉を吐き出した。「昨夜は、少しばかり調子が狂っていたようだ。瘴気に肺を焼かれ、正常な判断ができていなかった」 その言い回しに、胸の奥がチクリと刺されたように痛む。「調子が、狂っていた……?」「ああ。お前を近くに呼び寄せ、見苦しい弱音を吐いた。あれは、ただの錯乱だ。忘れるといい」 黎はふんと鼻を鳴らし、組んだ腕の指先で、自身の二の腕をトントンと一定のリズムで叩き始めた。苛立ちを隠そうともしない、

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